毎年春以降で最高気温も25℃を超える日が続くようになると「熱中症予防にしっかりと水分補給しましょう」というように天気予報やニュースで良く流れますよね。ランナーにとってもペース走やビルドアップ走などで長めの距離を走る場合は、練習中のパフォーマンスと練習後のリカバリーに大きく影響が出ます。気温が低い冬の間は水分補給をしなくても長い距離の練習を走りきれますが、汗をかくような季節は水分補給なしではせっかくのポイント練習も台無しになってしまいます。ただ、口の中や喉が渇いたからといって水分を大量に摂取すればいいという訳ではありません。実は、水分を過剰摂取すると「水中毒」によって、逆に体調を崩してしまう場合もあります。
そこで、今回の記事では、ランニング学会が2010年に発表した論文等を参考にして、マラソンや長距離走のトレーニング時の最適な水分摂取についてご紹介します。
レース中の体調不良が「すべて脱水症状」という誤解
マラソンや駅伝中継でも度々見られますが、選手がフラフラになって足取りがおぼつかない状態になっていることがたまにありますよね。このようなアクシデントは全て脱水症状が原因と思われがちですが、同じ症状でも高体温症や低体温症、低血糖、水中毒など、様々な疾患によって引き起こされています。特に市民ランナーで起こりやすいのは「水中毒」で、その発症率も低くありません。フルマラソン3時間を切るような選手であれば発汗量が多くなり給水所ごとの水分補給も必要になってきます。一方で、フルマラソン完走を目標としている選手では発汗量も少なく、脱水症状にならないようにとエリートランナーと同じように水分補給をしてしまうと逆に危険な状態に陥ってしまいます。
ランニング学会が各種調査をまとめた資料においても、各種マラソン大会において水中毒(低ナトリウム血症)が発生していることが分かります。発症率計算の分母を大会参加者としているため1%以下の低い数値で出ていますが、レース中に体調不良を起こしたランナーを母数としたら水中毒の割合は非常に高くなることが想像できます。
水中毒とは?
体内に過剰な水分が取り込まれることによって引き起こされる状態です。水中毒は、過度な水分摂取によって血液中のナトリウム濃度が異常に薄まることで引き起こされます。通常、体内のナトリウム濃度は一定の範囲に保たれていますが、水分を過剰摂取すると、摂取した水の量が排尿や発汗などの経路で排出されるよりも速くなる場合があります。これによって体内のナトリウム濃度が低下、細胞内外の浸透圧のバランスが崩れてしまいます。
水中毒の症状
初期症状には、頭痛、吐き気、嘔吐、けいれん、倦怠感、めまいなどがあります。重篤になると、意識障害、けいれん、肺水腫、脳浮腫などの症状が現れる場合があります。より深刻な状況になると命に関わることもあります。
水中毒の予防策
適切な水分摂取量を守りましょう。一般的には、日常生活や運動中に十分な量の水を摂取することが推奨されますが、過剰に摂取しないよう注意が必要です。特に長距離練習を行う場合には、適切な水分量に加えて、電解質を補給することが重要です。個人差や日々の体調、環境条件よって変化するため、バランスの取れた給水計画を立てることが重要です。
適量と摂取タイミングは?
レースや練習中の水分補給量は、練習メニューや体調、体型、気象条件などによって個人差やその時々によって違いがあるため、一律に数値で表すのは難しいですが、目安を知っておくためにも発汗量から適量を求めてみたいと思います。
1.発汗量を調べる
マラソンのレースペースで1時間走を行い、練習前後の体重を計ります。この際に減少した体重が「1時間あたりの発汗量」の目安になります。
発汗量=体重減少量=(走行前の体重)-(走行後の体重)
- 途中で給水した場合:体重減少量+水分摂取量
- 計測時間が1時間に満たない場合:(体重減少量+水分補給量)÷走行時間(分)×60(分)
2.適量とタイミング
体重差300gの場合、4分/kmで走るなら5km=20分、5kmごとの給水で100ml(紙コップ2/3杯分)ということが分かります。同じく6分/kmなら5kmごとの給水で150ml(紙コップ1杯分)となります。(実際に、6分/kmのペースなら真夏などでない限り1時間に300gの発汗量はないと思われます。)
3.計測が面倒な方への水分補給量の目安
おおよその数値を知っておきたいという場合は、2004年に国際陸上競技連盟(IAAF)が水分補給に関して1時間あたり400~800mlを目安とするよう勧告を出しています。体型や気象条件によって分けると、
大柄なランナー、4分/kmペース以上のランナー、気温の高い日
5kmごとの給水所で100~150ml(紙コップ半分以上から1杯分)
小柄なランナー、サブ4以降、気温の低い日
5kmごとの給水所で50~100ml(紙コップ1/3から半分程度)
4.レース時の給水
レース中の給水ステーションを活用しましょう。一般的には、5kmごとに給水ステーションが設置されています。給水ステーションでは、給水ポイントの前後で速度を緩めて、給水を受ける時間を確保することが重要です。給水ステーションでは通常、カップに入った水またはスポーツドリンクを提供しています。カップを手に持ち、少しずつ飲むようにしましょう。一度に大量の水を飲みすぎると、胃に負担をかける可能性があります。
5.給水量の調整
個人の水分補給ニーズは異なるため、給水量は人によって調整する必要があります。熱い天候や高温多湿の環境では、より頻繁に給水する必要があります。逆に、寒冷な環境でも給水は重要ですが、水分摂取量を調整する必要がある場合があります。長距離を走る場合、給水ステーションでの水分補給だけでなく、自身で持ち歩く水ボトルやハイドレーションパックなども利用すると便利です。給水は個人の状況によって異なるため、トレーニング中やレース前に給水計画を立て、実際に試してみることをおすすめします。また、熱中症や脱水症状を避けるために、適切な水分補給とともに適度な休息も重要です。
まとめ
いかがでしたか?人間の身体は非常に繊細に作られています。今回は触れませんでしたが、体重の2%以上の水分が失われると脱水症状の危険性が高まります。水分不足や過剰摂取は紙一重なので、レース中の水分補給についても当日の天候や体調に合わせて事前に計画を立てておくことをおススメします。